『村上春樹にご用心』 内田樹 著  覚え書き

気分転換にと思って、読み始め、読み終わったと思ったら、あっという間にこんな時間に。
さすが「目から鱗」の文章を書く内田さんが、村上春樹を語ると一味もニ味も違う。
批評にたいする批評(地獄?)はユーモアにあふれているし、的確。「世界で評価されるが、日本文学の記憶の厚みがない。」を「東京で評価されるが、世田谷文学の記憶の厚みがない。」と変換する。うまい。

以下抜粋

ノーベル文学賞受賞のヴァーチャル祝辞
「誰もやりたがらないけど誰かがやらないとあとで他の人たちが困るような仕事を、特別な対価や賞賛を期待せず、黙って引き受けること。そのような「雪かき仕事」を黙々と積み重ねているものの日常的な努力によって、「超越的に邪悪なるもの」の浸潤はかろうじて食い止められる。政治的激情や詩的法悦やエロス的恍惚は「邪悪なる物」の対立項ではなく、しばしばその共犯者である。この宇宙的スケールの神話と日常生活のディティールをシームレスに結合させた力技に村上文学の最高の魅力はある。」


「わたしたちが一番聞きたくないのは「無意味なもには意味がない」ということだ。」


「この世には意味もなく邪悪なものが存在する」



清涼で豊かな自由な言語の世界
「半ば僕自身にとって選択できない環境によって形づくられた固有の肉体を通してしか、行き着くことのできない世界なら、僕はその頑迷な肉体と折り合いをつけながら、すこしづつそこへ近づきたいと思っています。」
高橋源一郎『文学がこんなにわかっていいかしら』)

何かが欠けていること
「私たちは存在するものを共有するのではない。あるものを所有できないという事態を共有するのである。この不能において人間は時間と空間をこえて結ばれる。」

「ほんらいなら繋がりのあるはずのない一つ世界と別の世界が架橋されたときにはじめて、そこにそれ以外の方法ではその欠如を窺い知る機会のなかった、巨大な空隙があることがわかる。」
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